「二月の敷島に吹いた風」 〜第1節 H 岐阜戦〜

EC(レポ)

スポンサードリンク

幕開け

2016228日。時刻は午後2時。ザスパクサツ群馬、2016シーズンの開幕を告げる時が来た。
遂に完成したビッグフラッグが誇らしく掲げられ、スタジアムには草津節が響き渡る。配布された真っ青なTシャツを着た観衆がピッチを取り囲み、いざ決戦の時……

ー 場所は、都内某所。ビッグフラッグもなければ、草津節も聞こえない。静かに張り詰めた某大学の講義室で、僕は大一番を迎えていた。
この日を迎えるまで積み重ねた日々。思い返せば五年も前になる。コツコツと地道に努力してきた。朝早くから東京マラソンに浮かれる人々を尻目に、ブツブツと公式という念仏を唱えながら会場入りした。心地よい緊張感を纏いながら、任務は順調に遂行された。長かった道のりにゴールがぼんやりと浮かんできた。

ー 時計の針が、“12”と“2”を刺した。その時ばかりは、張り詰めていた糸が切れた。随分集中していたつもりだったが、身体が感じとったらしい。
「どうか、良い開幕を迎えられますように」
心の中で呟いたつもりが思わず言葉になったのは、期待より不安が大きかったからに違いない。朝から身を纏っていた緊張と、また違った色の緊張が身を覆う。時間にすると1分、いや数10秒だっただろうか。僕は意識を群馬から呼び戻し、いま一度糸を結び直した。

 

開幕と缶ビールと枝豆

ー 午後9時。自宅のTV前に陣取った僕は、はやる気持ちを抑え切れずにいた。

無事に任務終えた後、サッカーに関わる一切の情報を遮断して帰路に着いた。久しぶりに平穏な心持ちで味わえる筈の晩ご飯も、時計の針がどこをさせばサッカーが観られるのかを気にしてばかりいた。
そして、やっと、ようやく、いよいよ。この時を迎えた。僕の2016シーズン開幕戦。

スタメンは戦前の予想通り、オール日本人。とはいえ、川岸 祐輔、松下 裕樹、小牟田 洋佑以外は全て新加入選手。戦い方を予想しようにも出来るわけがない。ひとまずはお手並み拝見といったところ。

と、そこで。キックオフ前のコイントスを忘れ、審判に呼び出される我らが新キャプテン坪内 秀介の姿が映った。
坪内という男には、インタビュー映像などから知りえた程度の情報では、到底頼り甲斐というものを感じなかった。何処となく猫背で、口籠りがちな話し方。少年期を同じ場所で過ごした前キャプテン松下と、嫌が応にも比べてしまう。

「おいおい、坪内ホントに大丈夫かよ」左手の缶ビールを一口注ぎ込み、緊張続きで渇ききった喉を潤す。右手でつまむ枝豆からは、塩気を感じない。水に浸し過ぎたのか、それとも……。

キックオフの笛が鳴り響いた。

 

二月の敷島に吹いた風

ー 前半12分、その時はあっという間に訪れた。ザスパの右CKからだった。キッカーは、王子の背番号26を与えられた大卒ルーキー、瀬川 祐輔。
瀬川の右足から放たれたボールは、飛び出した岐阜GKを嘲笑うかのように、大きく左へとカーブした。群馬名物、からっの仕業だ。GKが触れることが出来なかったボールの落下点にいたのは?
そう、坪内だ。
坪内は相手マークに競り勝ち、主人不在となったゴールマウスへと、ヘディングでボールを押し込んだ。
湧き上がるスタンドに向かい駆け出す。左胸のエンブレムを誇らしく握りしめ、チームメイトが囲む輪の中心で、この試合最も難しい任務を成し遂げた男がそこにいた。

前言を撤回しなければならない。そして、ジャンピング土下座だ。
坪内 秀介、なんと頼り甲斐のある男だろうか。ここ数年のザスパにおいて最も高いクオリティを持ったディフェンダーと言うのは、いくらなんでも時期尚早か?いや、そうだろうか?
ここぞというピンチで(あの松下よりも先に)飛び込むシュートブロック、経験に裏付けされた的確な読み、前線へつけるパスの正確さ。そして、このゴールだ。ピッチ外の猫背の彼はどこにいったのだろうか?誇らしく左腕にキャプテンマークを巻いた彼は、得点後もすぐに厳しい顔を取り戻し、声を張り上げて戦っている。
TVの向こうに、新キャプテン率いる新生ザスパが起こすを、確かに感じた。

 


出会いと別れ

もはや毎年の事とはいえ、これほど数多くの辛い別れを経験した冬があっただろうか?しかし、チームはいま確かに生まれ変わろうとしている。そして、僕はそれを目の当たりにしている。

背番号262015年のザスパはその存在抜きにしては語れない。端正な顔立ちから「王子」と親しまれた男は、大宮へと旅立っていった。しかし、安心して欲しい。王子という雰囲気ではないが、LDH系のワイルドな顔をしたイケメンが、今年のザスパにはいる。
そう、常盤 聡だ。

ー 前半34分。自ら志願したペナルティキックをゴール左に沈め、彼は自身の代名詞であるバク宙を繰り出した。その綺麗な放物線に観客はどよめき、そしてときめいた(はずだ)。ちなみに彼のブログの名前は「ときメモ」だ。
黒く染め直した髪に健康的な浅黒い肌、そして爽やかな笑顔に、トドメはバク宙。個人ファンクラブ(トッキークラブ)を持つ男が放つ輝きは伊達じゃない。

しかし、彼が埋めるのはイケメン枠だけではない。彼は、ネクストエース。昨季、熊本の地で溜め込んだ鬱憤は、まだまだこんなものでは発散しきれないはずだ。

 


26番の系譜

この日の岐阜はお世辞にも良い出来とは言えなかった。前線に多く配置した外国人選手は明らかに調整不足で、オール日本人で躍動するザスパとは対照的だった。2点目を早い時間に挙げたことで、見る側としては随分安心感を持てた。試合展開同様に、ビールと枝豆のペース配分も完璧にリズムを掴んでいた。

ー 枝豆の皮を噛みしだきながら、ピッチの様子を分析してみる。左サイドの高橋 駿太と高瀬 優孝のコンビは、スピードと運動量でその領地を制圧していた。トップの小牟田には、身体をはったポストプレーに成長を感じる。不安視されていた攻撃だがスピーディでソリッドな印象だ。決してつまらない攻撃ではない。
一方の守備。小牟田と同じく2年目でありながら副キャプテンに抜擢された川岸は、プレーごとに繰り出すガッツポーズで観客の心を鷲掴みにしていた(はずだ)。その川岸の隣で淡々と仕事をこなす一柳 夢吾には好印象を持った。顔やキャラクターとは裏腹な仕事ぶりが光る舩津 徹也も同様だ(怪我で交代を余儀なくされたので心配が残る)

そんな中でも、やはり一番の驚きを持って見ていたのは、新背番号26の瀬川だ。小柄ながら卓越したスピードを駆使し、相手DFに勝負を挑む姿。そして、ルーキーながら全く臆することのないそのプレーは、昨季の背番号26に重なった。これが一度は一般企業への就職を決意した男だというのだから、驚く他ない。

解説の島田裕介は言っていた。「こういった選手がサッカー選手になってくれて本当に良かった」と。島田が言うこういった選手というのは、魅せることが出来る選手という意味だろうか。瀬川のプレーは見ていてワクワクする。今後が楽しみで仕方ない。


瀬川がこの日奪った2ゴールは、内容より結果として最大級の評価を受けて然るべきものだ。ルーキーで開幕戦に出場して2ゴールというのは、並大抵のことではない。ザスパ史上「最も活躍したルーキー」であろう前26番ですら、ドッピエッタは16節でのただ一度きりだったのだから。

26番の系譜が生まれる予感がしている。
背番号26はザスパにとって特別な番号だ。そう、風呂だけに。(言ってやった…言ってやった…)

テレビから試合終了の笛が聞こえた。僕は空き缶を握りしめ、天に、いや天井に拳を突き上げた。

ー 10分後。幸福感と疲労感を重ねて羽織り、布団へとダイブした。夢のような現実から、夢の世界へ。僕は、最高の週末に別れを告げた。

 

2016明治安田生命J2リーグ 第1節 公式記録



最後までご覧頂きありがとうございました



ブロングランキング参加中

ブログランキング・にほんブログ村へ





シェアして頂けると励みになります

スポンサードリンク

コメントをどうぞ

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。

CAPTCHA